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やまのてのこ
山の手の子
水上 滝太郎
「三田文学」1911(明治44)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,551 字 · 31 页
夕食の後、家内の者は団扇を手に縁端で涼んでいるうち、こっそりと私はまだ明るい町へ抜け出した。早くも燈火のついた柳屋の店先にはもう二三人若者が集まっていた。子供たちは私を珍しがっていろいろと海辺の話を聞きたがったがそれにも飽きると餓鬼大将の金ちゃんを真先に清ちゃんまでも口を揃えて、
「お尻の用心御用心」
とお互い同志で着物の裾を捲り合ってキャッキャッと悪戯けを始めたがしまいには止め度がなくなってお使いにやられる通りすがりの見も知らぬ子のお尻を捲ってピチャピチャと平手で叩いて泣かせる、若者は面白ずくに嗾しかける。私は店先に腰かけて黙って見ていたが小さな女の子までも同じ憂き目に逢ってワアッと泣いて行くのを可哀そうに思った。
間もなく町は灯になって見る間にあわただしく日が沈めばどこからともなく暮れ初めて坂の上のほんのり片明りした空に星がチロリチロリと現われて煙草屋の柳に涼しい風の渡る夏の夜となる。
「お尻の用心御用心」
と調子づいた子供の声はますます高くなってゆく。
「オイオイあすこへ来たのはお鶴ちゃんだろう」
こう言った若者の一人は清ちゃんの姉さんが止めるのも聞かずに、面白がる仲間にやれやれと言われて子供たちにいいつけた。