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やまのかみさつじん

山の神殺人

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,014 字 · 21 页

青空文庫

と批評はつめたい。

平作はかねてこの世評に腹を立てているところへ、署長が不二男君にヨメを、と云ったものだから、面白くない。

「あんな奴のヨメになる女がいるものですかい。なりたいという女があれば、色キチガイさね」

腹立ちまぎれに、百年の仇敵を呪うようなことを呟いた。

と、そのとき平作は警察の奥から賑やかな音が起っているのに気がついた。

「ナム妙法蓮華経。ナム妙法蓮華経。ナム妙法蓮華経。ナム妙法……」

まるで滝の音のようにキリもなく湧き起るお題目の声。女の声だが、必死の気魄がみなぎっている。

「あれは何ですか。警察の中と違いますか」

署長は苦笑して、

「朝から夜中までですよ。ほれ、例の山の神の行者お加久ですよ」

「人殺しの……」

「イエ、人殺しの方は、どうやらお加久に罪はなさそうです。あんまりうるさいから、今日にも釈放のつもりですが」

数日前に、農家の甚兵衛方で娘殺し事件が起った。キ印の娘ヤス子(当年十八歳)を一室に監禁し、食事を与えずチョウチャクして死に至らしめたという事件である。一家の者が心を合せて謀殺の疑いがあったが、これに山の神の行者お加久が一枚加わっている。