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やまへかえりゆくちち
山へ帰りゆく父
小川 未明
「中央公論」1923(大正12)年12月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页
風は、いままでは、つねに南から吹いていましたが、だんだん北から吹くほうが多くなると、季節も変わって、熱さは去っていったのです。
つばめは鳴いたり、すずめもまれにきて、屋根の上などで鳴きましたけれど、草は、故郷の草原で聞いたような、いい小鳥の声にはふたたび出あいませんでした。
太陽は、東から出て、西に沈みました。けれど、あの黒い森影から上がって、あの高い雲の光る山のかなたに沈むのではありませんでした。いつもほこりっぽい建物の屋根から上がって、あちらの屋根の間に落ちるのでした。草は、夜々、大空に輝く星の光を仰いで、独りさびしさに泣いたのです。故郷の露深い、虫の声のしげき草原が慕われたからです。そこにいまもなお花の咲いている姉妹や友だちがいるのが、かぎりなく恋しかったのです。
ある日、草は、下に黙ってすわっていた石に向かっていいました。
「あなたも、遠くからきなされたのですか。」
「ええ、やはり汽車に乗って、あなたといっしょにまいりましたのです。」と、石は答えました。
すると、草はさも疲れたというようすをして、
「あなたは、体がおじょうぶですから、どこにいられてもいいのですけれども、わたしは、もうこんなに弱っています。