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やまへかえりゆくちち

山へ帰りゆく父

小川 未明

「中央公論」1923(大正12)年12月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页

青空文庫

父親に、別れなければならぬ悲しみで、胸いっぱいにして旅立ちました。

汽車は、くるときと同じ道を通って、ついにふたたび故郷から遠く去ってしまったのであります。

幾百里も、遠いところを石と草とが運ばれました。石や草はどうして、こんな遠いところへくるなどと思ってましたでしょう?

息子は、植木屋に、草といっしょに石も鉢へ移させました。そして、草と石とを、ときどき見ようとしたのであります。植木屋は、鉢の中へ、草を植え、程いいところへ石を置きました。

「これで根がつけば、たいしたものです。」と、植木屋はいいました。

息子は、植木屋に向かって、「これをどこに置いたらいいだろうか。」と聞きました。

「さようです、寒いところに生える草ですから、風当たりのいい、高いところがいいと思います。」と、植木屋は答えました。

息子は、これをバルコニーに出しておきました。そこからは、都会のいろいろな工場から上がる煙が黒くなって見られました。ちょうど黒いへびのはい上がるように、いつしか青い空に、煙は吸い込まれて消えているのでありました。

また、いろいろの、巷から起こる音が聞こえてきました。