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やまへかえりゆくちち

山へ帰りゆく父

小川 未明

「中央公論」1923(大正12)年12月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页

青空文庫

ついここにくるまでは、はかない自分の運命というものに考えつかなかったのです。」と、さも後悔したように語りました。

これを聞くと、さすがに黙っていた石も、感慨に堪えないふうで、

「私は、長い幾十年かの間、無事に暮らしてきました。そして、おそらく、永久にそのように暮らされるものと思っていました。それが、思いがけなく、こんな身の上になってしまったのです。これから先のことを考えると不安でなりません。」と、石はいいました。

やさしい草は、自分の身を忘れて、石に同情したらしかった。

「けれど、あなたはおじょうぶですから、安心なさいまし。わたしは、枯れれば、明日にもあの人通りの多い道の上に捨てられてしまうかもしれません。そうすれば、あの怖ろしい車や、馬にふまれて、わたしの体は、跡形もなく砕かれてしまうでしょう。」と、草はいいました。

「いえ、私だって同じことです。」と、石はいいました。

こうして、草と石とが相慰め合ったのも、束の間のことでありました。草は、とうとう枯れてしまったのです。

息子は、草の枯れたのを、どんなに悲しんだかしれません。

「そのうちに、なにか、かわりのいい草を見つけてきて植えてさしあげます。