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とうげにかんするに、さんのこうさつ

峠に関する二、三の考察

柳田 国男

「太陽」1910(明治43)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,027 字 · 10 页

青空文庫

三 昔の峠と今の峠

内海を渡って四国に入れば、「たを」とは言わずに「とう」と呼ぶけれども、「とう」はまた「たを」の再転に相違ない。土佐の国中から穴内川の渓へ越える繁藤に、肥後の人吉から日向へ越える加久藤は、共に有名な峠であるがこの藤もまた「たを」であろう。「たうげ」は「たむけ」より来た語だというのは、通説ではあるが疑を容るる余地がある。行路の神に手向をするのは必ずしも山頂とは限らぬ。逢坂山は山城の京の境、奈良坂は大和の京の境であるから、道饗の祭をしただけで、そこが峠の頂上であったためではなかろう。「たうげ」もまた「たわ」から来た語であるかも知れぬのである。

三 昔の峠と今の峠

「たわ」及「たをり」は今日の撓むという語と、語源を同じくしていることは明かであるが、その「たわ」は山頂の線が一所たわんで低くなっていることをいうのか、または山の裾が幾重も重って屈曲して入込んでいるのをいうのか、何れとも決しかねる。『新撰字鏡』を見ると「嶼、山の豊かなる貌、山のみね、ゐたをり云々」とあり。また「※、曲岸也、くま又たをり又ゐたをり」ともある。実際昔の人が山を越えるのには、頂上の低い所を求めると同時に、水の流に依って奥深くまで、迷わず入り立つことの出来る所を求むべき道理である。