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おうまじるしはいしゃく

御馬印拝借

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页

青空文庫

ことなれば、なにとぞお慈悲をもちまして……」「もうよい、わかっている」家康は手を振りながら、ふとその両眼を閉じ頭を垂れた、かなりながいことそうしていたが、やがてしずかに面をあげて「……二度とはならぬが、このたびはゆるす、そのほうすぐみにいってやれ」「……はっ」「生死にかかわらず是を遣わすぞ」そう云いながら、家康は着ている陣羽折をぬいでさしだした、康政は押し戴いて受け、幕営をさがるとそのまま、夜道をかけて菩提山へ向った。

康政主従が山上へたどり着いたのは明くる日の黄昏まえだった。足の踏むところ、眼を向けるところ、どこもかしこも死躰だった、焼けた望楼や崩れた塁壁の下まで捜したが、息のある者は一人もなかった。防げるだけ防ぎ、さいごには敵が斬り込んで来たとみえ、刺し違えて死んでいる者がずいぶんあった、なかには負傷して身うごきができなかったのだろう、自ら屠腹した者も十人あまりいた。土田源七郎の死躰は御馬印の下にみつかった、そこでもっとも烈しい戦いがあったらしく、折り重なっている二十人あまりの屍は、兜がとび鎧はずたずたに千切れ、持っている