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おたか
御鷹
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页
弁馬の前に立っては、幾太刀合す遑もあるまい。彼の人は討たれている。
(……死のう、その側で。何を云わないでも、それでゆるして下さるに違いない。身の明りは、それで立つ)
低い丘の疎林の中を、この附近の若侍たちが、三、四人して、犬でも追うように彼方へ駈け降りてゆくのをお悦は見た。
然し、そんな物は、眸に映っても、心には映らなかった。丘をのぼってゆくと、地線に起伏のある広い萱原が眼に展けて来た。その枯野を踏んで、一人の男が血刀を提げて、起っていた。
足もとには、朱になった人間が俯っ伏しているのだ。もう果し合は決していたのである。そして、血に酔ったように、茫と眸をひらいて立っていたのは、弁馬ではなくて、小柴角三郎だった。
生きていようと思わなかった人の姿を見ると、お悦は、欣しいのか悲しいのかわからなかった。わっと甘えるような泣き声が、枯野いっぱいに流れた。
『……違います……ち……ち……違います。……あ、あんまりです』
それだけしかお悦は云えなかった。
角三郎は、常の冷たい美貌に、きょうは、なお、冴えたものを持って、お悦が、泣くだけ泣かせていた。それから、こう云った。