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おたか
御鷹
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页
だが、鷹の眼は、彼が良家の女を窺う時のように冷智に澄ましていた。夕月に光る琥珀色の双眸が星のように光る。
『……どうしたというのだ! いつもになく』
忌々しげに、顔をゆがめ、角三郎は小石を拾って、梢へ投げた。――ぱっと、すごい羽搏きが、そこを離れ、枯野の上を、弛く旋った。
『しめた――』
角三郎は、駈け出した。
自分のすがたを、何ものの障害もない枯野のまっただ中に起たせて、ふたたび、指笛を吹きぬいた。息のつづく限りに。そして、拳を見せ、日頃の飼い主のやさしさを、媚態であるほど、誇張して見せた。
――だが、鷹は、彼の拳に下りなかった。
『こんな筈はないが――』
鷹をつかわせては、御鳥見組のうちでも中里の小柴といわれている自分。少年の頃から鷹を拳にあつかい馴れている自分。
『こんな――こんなわけはない――。まして、吹雪は、今朝まで手に飼っていたものが……』
絶対な自信があるのだ。あるが故に、小柴角三郎は、肺も心臓も、へとへとになるまで、指笛に息を費した。しまいには、血を吐くと思われるほど、音が嗄れ、全身がつかれてしまった。
『こんな等はない。――畜生、畜生』