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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

五

外へ出てほっと顔を見合せた。

明るい霜解けの道に、一足先に屋敷を出たお悦のうしろ帯が見える。――弓町は、凝と、見つめながら歩いていたが、顔を寄せて、

『新五左。……あの娘、妊娠って居りはせんか?』

『まさか』

『いや』

自信のある首の振り方だった。

『……どうも、わしの眼では、そう見えるが』

『どうして』

『歩き方を見ても』

『霜解けのせいじゃよ。あの厳しい白翁の眼を見たか、まるで御鷹だ、なんであの眼の蔭でお息女にそんな……』

草履の裏に粘りつく黒土によろめきながら、新五左が、強情を張った。

五

『お留守? ……。どちらへと仰しゃってお出かけでしたか』

『何もお告げにならずに』

と、小柴家の召使は云う。

お悦とこの屋敷とは、もう一つ家のようにしていた。角三郎が自分の屋敷へ来た時も同じである。

『黙って? ……。それなら、きっとお帰りなんでしょう』

庭へまわって来て、角三郎の部屋の縁に腰をやすめ、夫婦になって生活す日の陽ざしをうっとりと思ってみる。

御鳥見組のうちでは――いや今まで知った男性のうちでは――誰よりも彼の人はすぐれていると彼女は思う。結婚した長い後になっても、彼の人ならば悔いを咬むことはあり得ないと思う。