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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页
北斎と幽霊
一
文化年中のことであった。
朝鮮の使節が来朝した。
家斉将軍の思し召しによって当代の名家に屏風を描かせ朝鮮王に贈ることになった。
柳営絵所預りは法眼狩野融川であったが、命に応じて屋敷に籠もり近江八景を揮毫した。大事の仕事であったので、弟子達にも手伝わせず素描から設色まで融川一人で腕を揮った。樹木家屋の遠近濃淡漁舟人馬の往来坐臥、皆狩野の規矩に準り、一点の非の打ち所もない。
「ああ我ながらよく出来た」
最後の金砂子を蒔きおえた時融川は思わず呟いたが、つまりそれほどその八景は彼には満足に思われたのであった。
老中若年寄りを初めとし林大学頭など列座の上、下見の相談の催おされたのは年も押し詰まった師走のことであったが、矜持することのすこぶる高くむしろ傲慢にさえ思われるほどの狩野融川はその席上で阿部豊後守と争論をした。
「この八景が融川の作か。……見事ではあるが砂子が淡いの」
――何気なく洩らした阿部豊後守のこの一言が争論の基で、一大悲劇が持ち上がったのである。
「ははあさようにお見えになりますかな」融川はどことなく苦々しく、「しかしこの作は融川にとりまして上作のつもりにござります」