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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页
狂女と犬
京都の高等学校に居た頃、――それはたしか明治四十一年だったと思うが――私は、冬休みに、京都から郷里の名古屋まで、名所見物を兼ねて、徒歩で帰ろうと思い立った。汽車ならば五時間、悪七兵衛景清ならば十時間かからぬくらいの道程を五日の予定で突破? しようというのであるから、可なりゆっくりした気持の旅であった。私は旅をするとき、道連れのあるのが大嫌いで、その時も、単身学校の寄宿舎を出発したのであるが、元来、冒険好きな私は、こんどの旅で、何か意外な、青春の血を泡立たせるような現象に出逢うか、或はまた、一夜に髪の色を白くするような事件に捲きこまれて見たいというような愚にもつかぬ考を抱いて居たのである。さもなくても、せめて昔の物語りに出て来る胡麻の蠅にでもぶつかるか、或はまた、父母をたずねる女の巡礼と道連れになって、その哀れな身の上話をきいて、心ゆくままに慰めてやりたいというような希望も持って居た。然し、実際道中をして見ると、そんなロマンスは何処にも落ちて居なかった。たまたま眼付きの悪い人間に出逢っても、それが散歩中の結核患者であったり、又、巡礼らしい者に出逢っても、六十ばかりの婆さんであったりして、間の抜けること夥しかった。