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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页
鼻に基く殺人
「もうじき、弘ちゃんが帰ってくるから、そうしたら、病院へつれて行って貰いなさい」
由紀子は庭のベンチに腰かけて、愛犬ビリーの眼や鼻をガーゼで拭ってやりながら、人の子に物言うように話すのであった。
「ほんとうに早くなおってよかったわねえ、お昼には何を御馳走してあげましょうか」
ビリーはまだ、何となく物うげであった。彼は坐ったまま尾をかすかに振るだけであった。呼吸器を侵されて、一時は駄目かと思われるほどの重病から、漸く恢復したこととて、美しかった黒い毛並も色を失って、紅梅を洩れる春の陽に当った由紀子の白いきめを見た拍子に、一層やつれて見えるのであった。
「これでいい。どれ、見せて頂戴、まあ、綺麗になったこと」
拭き終った由紀子は、こう言いながらガーゼを捨てて、エプロンのポケットから、ビスケットを取り出してビリーに与えた。ビリーは、あまえるようにして、由紀子の股に、咽喉のあたりをぴったりつけて食べるのであった。
由紀子は暫くの間、自分もビスケットを食べながら、一度は傷いたことのある肺臓へ、今はふっくりとした胸壁を上下させながら、春の空気を思う存分呼吸した。