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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页
それが何月何日に聞えるときまって居る訳ではありませんが、兎に角、狂女の霊魂が、死後もなお生前のとおりにこのあたりに、さまよって居るとしか考えられないのです」
私は冷たい水を全身に注ぎかけられたような気がした。そうしてふと正面の床の間にかけてある達磨の図に眼を移すと、気のせいかその大きな眼が瞬きしたようであった。然し、私のこの一時的の恐怖は去って、その代りに好奇心が猛烈に起って来た。
「どうでしょう。お差支なくば、その狂女の身の上話をして頂けませんか」
こういって私は坊さんの返答如何にと、その顔を見つめた。
「そうですな。お若い方には、或は興味が多いかも知れませんから、それでは一つお話しすることにしましょう」
こう答えて、坊さんは床の間の前にあった炭籠を引き寄せて、火鉢に炭をついだ。戸外には風が吹き募って、雪の戸を打つ音がしんみりと聞えて来た。
いざお話しするとなると、さて、何から始めてよいかに迷います。そうだ、まず狂女の身の上からお話しするのが順序でしょう。
お蝶さん。これがその狂女の名でした。狂女といっても生れ乍らの狂女ではありません。お父さんの死後、悲惨な運命のために狂女になったのです。