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みっつのあざ

怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集

小酒井 不木

小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页

青空文庫

然し、本能とでも言いますか、彼女は赤子に乳をやることを忘れませぬでした。彼女が分娩したのは三月の末でしたが寒い山里とはいい乍ら、すでに野にたんぽぽが咲いて、彼女はそれを摘んでは赤子をあやしました。

然し、発狂の度が高まると同時に、彼女が五人の悪漢をうらむの情は、露骨になって来ました。内気な彼女は、それまで怨恨の情を胸中深く蔵して居ただけですが、発狂のために漸次抑制の力が麻痺したものか、五人のものに対する復讐心が非常な勢で、頭をもたげて来ました。もとより彼女はその時、五人のものをさえ見わけがつかぬのでしたが、その魂に刻みこまれた復讐の念は、彼女の肉体の存する限り、いや、肉体が亡びてもなお残るであろう程強いものだったと思います。

村人が彼女の家のそばを通ると、彼女はいつも、白に向って、

「白や、かたきとっておくれ!」

と、宛かも白に向って催眠術でもかけるかのように、白をじっと見つめて言うのだったそうです。すると、白は、さもさもその言葉をよく了解したかの様に、口をあいて舌を出し、前脚を折って前に差出し、尾を振り乍ら、人間でいえば、万事承知しましたと、うなずく様な挙動をしたそうです。