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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页
結婚届を出したくも、彼女は何処で生れたかということさえ私には話さなかったのであって、両親も兄妹もないと見えて、手紙一本出すような様子はなく、また唯一人彼女を訪ねてくる者もなかった。「露木はる」という彼女の名さえも、それが果して本名であるかどうかを私は知らなかった。年齢などはもとより、きいても言わず、きいたとて別に何にもならないので、私はその儘にして置いた。言葉つきから判断すると四国や九州のものではなく、むしろ東北地方の生れであるらしかったが、私は彼女の素性を探偵して見る気にもならなかった。
法律上結婚はして居なくても、事実上夫婦関係を結んで居るのであるから、私の強迫観念は去る由もなく、今にも何だか恐ろしい目に逢いそうな気がした。
ある日私が会社の帰りがけに、芝公園を散歩しながら帰って来ると、どこからともなく一疋の白犬が血相かえて駆け寄って、あっという間にズボンの上から噛みつき、これはと思ったときには犬は遥かむこうへ走り去り、それと同時に、右のこむらに焼けるような痛みを覚えた。狂犬! 私はそのとき狂犬の毒の恐ろしさよりも、「犬の祟」即ち、これぞ身の破滅の緒だ! という観念の恐ろしさに全身を慄わせた。