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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

尤もその原因は飲み過ぎや遊び過ぎにあったかも知れないが、その日は終日事務所で神妙に書類の整理をやっていた。夜も稀らしいほど早く寝た。

事実はこれだけのことであるのを、誰かが嘘を造って東京へ報告したものであろう。尤も彼がこんな目に会ったのは、これがはじめての事ではなかった。今までにもこう言う手段に乗せられて、自分の係長をなぐってしまってから、後で罪はその人にないのが解って、きまりの悪いのをこらえて謝罪ったこともあった。妙な風説を立てられた為めに、飯場頭に切られ損ねたことも、坑夫と喧嘩して、鍛冶場の火の中へ重なり合って転げ落ちたこともあった。

今度のことも恐らく誰かが、何かのためにこんな事を言ってやったのであろう。鉱主の怒るのも無理はないが自分のした事のために、年老いた母親まで引合いに出さなくとも好いことと思った。それは甚だしい侮辱だと思った。

その瞬間に彼は、辞職してすぐ東京へ帰ろうと思った。こんな小さな山の中で、仲間のアラを探し合ったり、中傷したり、それで足りずに嘘まで造って報告するような手合の中で、狭苦しい退屈な日を送っていることは、馬鹿げたことだと考えたからであった。