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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

けれどもそれは、ただこの山の煩わしさから逃れるだけで、前途に何の望みもありはしない。職業に餓えて、あの砂埃りのひどい東京の街を痩犬のようにさまよって、哀訴したり嘆願したりしなければならないのは、今から考えてもぞっとするほど解り切った事である。それで何かにあり附けば、やっぱり同じような厭やな気持ちを繰り返すだけの事だ。すべて世の中が、そんな風に出来ている――と思うと、彼れは又た妙に心細くなってしまった。

旧坑の奥から吹いて来る陰気な風に吹かれながら、彼れはじっと目をつぶって了った。

午過ぎの交替時間に、事務員はみんな見張りのテーブルの周囲に集った。その時池田は真中のテーブルの上に手紙を投げ出して、

「まあ読んでみてくれ給え。誰か妙なことを言ってやったとみえるよ」と平気らしく装うて言った。

手紙は手から手に取られた。彼はそれを読む人の顔から、何物も逃すまいと、ジッと次から次に見詰めて行った。

最初に読んだ鈴木は、

「また誰か妙なことを言ってやったんだな」と言った。

次に読んだ測量係の男は、黙って「フフン」と笑った。

一度池田を中傷して、後で彼から散々罵られた阿部という若い男は、読み終ると顔を赤くして黙っていた。