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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

「躄の乞食が証人に立ったのでしたわね」

と突然妙なことをおっしゃるのだ。

「躄車に乗っていたのでしょう。躄車……ねえ、これ躄車の形じゃないこと。この四角なのが箱で、両方の角が車で、斜の線は車を漕ぐ棒じゃないこと」

「ハハ……、子供の絵探しじゃあるまいし」

先生は一笑に附してしまいなすったが、この奥さんの着想は、僕をびっくりさせた。子供だましと云えば子供だましの様だけれど、女らしく敏感な面白い考え方だ。

「そういえば、乞食だとか山窩などがお互に通信する符号には、こんな子供のいたずら書きみたいなのが色々あった様ですね」

僕も一説を持出した。

「それは僕も考えていた。どうして警察ではその変な乞食を疑って見なかったのだろう。そいつこそ現場附近にいた一番怪しい奴じゃないのかい」

この先生の疑いに僕が答えた言葉は、同時に君の手紙にあった疑問への答にもなるのだ。

「あの乞食を一目でも見たものには、そんなことは考えられないのです。あいつは血腥い人殺しなどをやるには年を取り過ぎています。力のない老いぼれなんです。それに手は片方しかないし、足は両方とも膝っ切りの躄ですから、あいつが土蔵の二階へ上って行くなんて全く不可能なんです。