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あくりょう
悪霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页
ふと気がつくと、闇の中に何かしら動いているものがあった。ぼんやりと白い人の姿だ。龍ちゃんがソファから立上ってソロソロと歩き出している様に思われた。
「龍ちゃん、どうしたんだ。どこへ行くのだ」
黒川先生のびっくりした様な声が聞えた。
白いものは、併し、少しも躊躇せず、黙ったまま、宙を浮く様に進んで行く。そして、おぼろに見える二つの白い塊りが、龍ちゃんと、鞠子さんとの白っぽい洋服が、段々接近して行って、やがて、ピッタリ一つになったかと思うと、
「この人です。執念深い魂が、この人を狙っているのです」
という、声が聞えた。と同時に、ワワ……と、笑い声とも泣き声ともつかぬ高い音が、暗闇の部屋中に拡がった。鞠子さんが死もの狂いの悲鳴を上げたのだ。
僕はもう我慢が出来なくなって、椅子を離れると、声のした方へ駈け寄った。あちらからも、こちらからも、黒い影が、口々に何か云いながら、近づいて来た。
「早く、電気を、電気を」
誰かが叫んだ。黒い影がスイッチの方へ走って行った。そして、パッと室内が明るくなった。
五人の男に取り囲まれた中に、鞠子さんは黒川夫人の胸に顔を埋める様にして、取縋っている。