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あくまのでし

悪魔の弟子

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页

青空文庫

五

彼女は実に忠実でした。親切でした。それで遂に二年前彼女を妻ときめて同棲するようになったのです。此の結婚は愛をもって(少くも私の側から)成ったのではありません。彼女の忠実と親切と、そして彼女の肉体と彼女のためていた小金が私に必要だったためです。土田さん、私はこんなことを恥もなく云います。私は小悪魔でした。しかし私一人を成長させんが為には、女の一人や二人は犠牲にしてもかまわないじゃありませんか。

親のない露子は、頼る者とては私一人だったのです。彼女は私の妻となってからも、至って従順で、貞淑で、善良でした。私が酒を飲み、女を買って帰っても一言の文句も云い得ない彼女です。こういう愛すべき彼女を妻として、私にはやっと平和な時が来たと思われました。

五

よき妻を得て約半年、私には割に平和な日が続きました。ただ其の間に故郷の父に死なれた以外には。

流石に父の危篤という報を得た時は急いで国へ帰ったのでしたが、私の到着するのを待たず父は逝ってしまいました。之で相続人たる私には、僅かながらも夫婦が暮して行けるだけの財産が手に入ったので、私は再び上京したのでした。

私はそれから、以前勤めていた或る雑誌社に又雇われて、外国語の飜訳をしながら少々ばかりの収入を得ていたのです。