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あくまのでし

悪魔の弟子

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页

青空文庫

私はあれをはっきり見た事がある。たしかに前に見たことがある!

何時? 何処で?

私は石のようになって、なおもその紙を見つめたのです。

私は死物狂になって脳漿をしぼりました。

そうだ、私は此の女を殺そうとしたのだ、此の女だ、露子だ、俺の犠牲になる筈だったのは!

続いてまき起った頭の中の嵐、雷鳴、電光!

私は一語も露子にものをいわずに、自分の部屋に逃げ戻りました。

忘れてはいかんぞ、今思い出したことを!

私は昨日一日、昨夜一夜、凡てを思い出そうと努力したのです。

土田さん、斯うして、一晩中思い出し考え考え辿ったあとが、今まで書いて来た恐ろしい事実なのです。

そうです。之こそまちがいのない事実なのです。私は妻を殺そうとしたのです。石原すえ子を殺そうとしたのでもなく、又殺したのでもありません。

私の考えに従えば、すえ子は過って死んだのです。

私は凡ての記憶力を回復した時、旧友たるあなたが、丁度此の裁判所の検事局にいることを思い出しました。

私の今までの話を、信じて下さるのはあなた一人かも知れません。あなたには、此の私のいう言葉に、一つの偽りもないという事が信じられるでしょう。