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あくまのかお

悪魔の顔

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页

青空文庫

と境の扉を開けて、孔雀のように立ったのは、濤子夫人の美しい姿です。

「聞えましたか」

「ウ、ファッファッファッ」

小西老人は独りで悦に入って居ります。

「それはそうと、先刻の話の切りを付けましょう、千種さんは何うじゃな――」

先刻から隅の安楽椅子に凭れて、黙って一座の「殺人論」を聴き入って居る名記者、千種十次郎の方へ鉾先が向けられました。

「私にはわかりません、毎日毎日血腥さい事件を扱って居ると、返って頭脳が混乱してしまって、其間から公式も哲学も見出す気にはならないのです」

「成程そう言ったものでしょうな、併し……」

石井馨之助が、尚も殺人論へ話を持って行こうとすると、客間の扉が音もなく外から開いて、

「お父様、お時間で御座います」

ソッと貴族的な感じのする美しい顔。娘の美保子と言って十八歳、先妻の子で継母の濤子とは十二三しか違いませんが、濤子が咲き誇る牡丹のように美しいのに対して、これはまた、露草のように淋しく、たよりなく、そして可憐な娘でした。

「もうそんな時間かい、相変らず酒井博士は頑固で、私にどんな事があっても十時には寝なければいかんと言うのです。あとは家内がお相手しますから、どうぞいつものように御ゆるりと願います、御免下さい」