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あくま
悪魔
小川 未明
「新文藝」1910(明治43)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,591 字 · 16 页
」と、青腫れのした爺さんは威丈高になって、女を捕えようとした。
「見ません。見やしませんよ。」
「お前、それはほんとかい。」と爺さんは、極めて力の籠った、重い調子で言う。
「ほんとですとも……。」
爺さんは、その隣の家へと歩みを移す。ヒステリー風の女は怪しな笑いを洩した。
「気味の悪いこった。妾は、盗みなんかしやしないよ。」と小声でいった。
爺さんは、耳の遠い、白髪の婆さんを捕えてやはり同じいことを繰返していた。
「黒い男。丈の高い、頭から黒い男だ。」
婆さんには、爺さんの言うことが分らぬらしい。爺さんも、これには弱っているようだ。
「なに、お前はもう好い加減の年寄だ。大丈夫だろう……。」といって、隣へと歩いた。
女も、男も、子供も、若い者も、年寄も、この爺さんの質問を受けた。中には、
「御苦労様です。」と、四辺を憚りながらいったものもあった。爺さんには、この些細のことが嬉しく聞えたか、聞えぬか、それとも腹立たしく思われたか分らないが、知らぬ風で、家から家へと歩いた。
家数が五十に満たない、爺さんは、この村の村長であった。
「黒い男を見たものがあるというそうだ。