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あくま

悪魔

小川 未明

「新文藝」1910(明治43)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,591 字 · 16 页

青空文庫

二

」と、かのヒステリー風の女は、爺さんの姿が、どこかに隠れて見えなくなった時分、ちょうど爺さんが、聞いて歩いたように次から次へと歩いて行った。

「黒い男を見た!」と、みんなが、口々に言い触らした。

「誰が?」

「誰だか知らない。あの女が言ったのだ。」

女は、髪が壊れていた。着物が汚れていた。帯は破れていた。色は白いが、歯は黄色かった。

「オイ、お前さんが見たのかい。」

と、例の四十男が、後から、これも足音を立てぬように従いて来て女に問うた。

女は、また例の怪しげな凄い笑いを見せた。

「嘘だよ。」と白々しく言った。

「なんで嘘なぞ言うのだ。人を吃驚させやがって。」

傍に聞いていた男も、

「なに、嘘だ、この阿魔め、人を驚かしやがる。」

と言うと、みんなは、駆け集って来て、ヒステリー風の女を擲った。

「この阿魔め!」

「この阿魔めが!」

二

青ぶくれのした爺さんは、そこここと歩いて、村中、一人残らず聞いて歩いていた。

空は、次第に灰色を帯びて来た。

「厭な空じゃないか。」

「悪いことの起きる時は、こんなものだ。」と、家の前に立っていた人々が言っている。

「見たら、どうなるんだい。