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あくま
悪魔
小川 未明
「新文藝」1910(明治43)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,591 字 · 16 页
六
煤けた破れた障子と、外側に廻らした亜鉛の垣との間はわずかに三尺ばかりしかなかった。女の苦しみ悶える声が途の上に聞えた。
暗い、静かな午後、村は人通りが杜絶えて、黒い男の横行を怖れて戸を閉めてしまった。……
烏は、寺の林で悲しげに啼いている。
六
強度の石炭酸と、石灰と、他に劇薬の入った罎を持った、医者と、警官と人夫と先に立ち、後から青ぶくれのした村長が考え顔をしながら織物会社へやって来た。
黒く目の潰れた畳を、苦しまぎれに引掻いた、女の爪からは血が流れていた。髪は乱れて、瞳は開いて大きく、歯が折れるほど噛み鳴らした、歯茎からは血を噴き出していた。
人夫は、暗い室の壁に石灰水と石炭酸を撒き散らした。警官は閾の上に靴のまま突っ立っていた。監督の男は女の黒髪を掴んで、室から引き摺り出して、手を石炭酸で洗った。医者は、一寸女の眼瞼を引返して見て、
「これは、直ぐ避病院へやらなけれやならん。」と言った。
眼の三角形な険しい顔付の監督は、憎々しそうに女を横目で睨んだ。
「いよいよ三週間ばかり休まなけやならなくなった。」
と、傍にいた青ぶくれのした村長に向って言った。