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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
来年になれば、急に十倍になるなんて性質のものではない。俸給のことをとやかくいうのは、言いがかりというものだ。相談をしているんだから、相談をしているような返事をしなくてはいけない」
「そうおっしゃいますが、これは相談にはなるまいと思うんです。あなたとあたしと、考えていることの根本がちがうんですから」
「へえ、どういう点で?」
「あなたは邸に移ることにきめていらっしゃるようですが、あたしは、なんとかしてあそこへ住まずにすめるように……つまりは、この生活をつづける方法がないものかと、そればっかり考えているんです。この点を調整しないかぎり、相談など、成り立つわけはなかろうじゃありませんか」
「そうねがえるなら、俺にとっても、これ以上のことはない。なにか、名案でもあるのかね」
「あの邸を都へ寄附して、博物館にでもしてもらうわけにはいかないのでしょうか」
「夫婦は同体というが、頭のなかまで似ているとは思わなかった。苦しまぎれに、俺もそんなことを考えたことがあったが、いまとなっては、そういうこともできない」
「どうしてでしょう」
「役所では、俺の顔を見るたびに、どいつもこいつも、おめでとう、おめでとうという。