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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

先代は、えらく様子ぶって、ミスタ石田だの、ミシズ石田だのと、いちいち筋目をたてるうるさいやつだったが、こんどのは、気味が悪いくらい人馴れしていて、石田氏のことをパプさん、賢夫人のことをマムさん、五十雄君をジュニアさん、千々子さまと百々子をひとまとめにして、シスターさんと呼ぶ。機嫌のいいときは、三十二枚の歯を、そっくり見せて馬鹿笑いをし、気にさわることがあると、胸を叩いて、

「ヘイ・ユウ、これでも横浜ッ子だい。見損なうなよ」

などと啖呵をきる。

石田家の一家五人は、先代のメードにこづきまわされ、骨身に沁みるような、苦い経験を舐めたはずだったが、性懲りもなく、代変りを入れるところから推すと、賢夫人も千々子さまも、ハークネスのことをあきらめられず、苦しいなかで受入れの態勢を整え、いつともあてのない訪問を、辛抱強く待つ気でいるらしい。

ヘンリ清水にたずねると、明日あたり、ハワイに着くはずだとか、着くところだとか、とりとめのないことを口走り、そのすえ、切羽詰って逆上し、朝鮮で戦死したのかもしれない、などとヤケのようなことをいい、賢夫人に問い詰められるのを恐れて、この十日ほど、チラとも姿を見せなかったが、八月はじめの蒸暑い午後、癇をたてたようすで、汗を拭き拭き、とびこんできた。