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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
この時間に、広縁にいるのは、いつもは、賢夫人と千々子さまだけなのに、今日は、石田氏や五十雄君までいるので、戸迷ったような顔でモジモジしていたが、石田氏のほうは、このひとが来るのを心待ちしていたふうで、ひとがちがったような、愛想のいい声をかけた。
「やあ、清水君、暑いね」
ヘンリ清水は、白麻のズボンの襞を掴んで、おそるおそる縁端に掛け、
「お暑いですな。今日は、錦鯉のほうは、なさらないんですか」
と、とってつけたようなことをいうと、石田氏は、はははと空笑いをして、
「こう暑いと、魚が怠けて、居睡りばかりしている。訓練は、当分、お休みだ」
気のない会話のやりとりをしているとき、屋根のつくろいにかかっている洋館のほうから、カーキ色の防暑服を着た、二十七八の、ぬうっとした感じのひとがやってきて、アメリカ唐檜の日蔭に坐っている百々子を見ると、きれいな眼もとを崩して、ニッコリと笑いかけた。
黒々と陽に焼けた、この朴訥すぎる顔を忘れるわけがない。石田一家が渋谷の向山町にいるとき、露地の奥のバラックに一人で住んでいた、シベリヤ帰りの建築技師だった。
「大里さん、あなた、この家の仕事をしているんですか」