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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

それまで、超然と椅子に掛けていた賢夫人は、キッとなって、清水のいるほうへ向きかえた。

「冗談なら、やめていただきましょう。ひとが真剣になっているときに、おひゃらかししたりするものではありません。出鱈目をいうなら、マニラにいるくらいのことでもいって、恍けておきなさい」

「なんのために、あたしが恍けなけりゃならないんです? ……入国管理局から、あたしのところへ、シュラー・ハークネスの東京の住所の問合せがあったんだから、これ以上、たしかな話はないでしょう」

千々子さまが賢夫人の腰を突ついて、なにか小声でささやいた。賢夫人は、なるほどといったふうにうなずくと、急に砕けたようすになり、シオのある眼つきでヘンリ清水に笑いかけながら、

「そういうことでしたの。そんなら、たしかな話でしょうとも……あたしたちも、ずいぶん待たされたけど、これで、やれやれだわ」

などと、油断をさせておいて、いきなりグイと急所を抉った。

「でも、一週間も前に東京に着いていながら、千々子のところへ顔を見せないのは、なぜでしょう」

ヘンリ清水は、眼を白黒させてうろたえながら、

「それはシュラーの一存にあることで、そこまでのことは、あたしにもどうも……あたしをお責めになるのは、それァ、ご無理ってもんですよ」