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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

昨夜、とやかくと言説を弄したのは、賢夫人の側に主張がましいことがあると、かならず反対のほうへねじくれる、石田氏のしつっこい気性を利用しようとしたのにすぎない。石田家の家族史をひもとくまでもなく、過去の事例どおり、反対さえすれば、わけなく思う壺にはまるはずだったが、そうでなかったので、大きな誤算になった。

ところで、石田氏のほうも、計算尺の細かい目盛で鍛えた強い視力を持っているので、だまされっ放しになるようなことはなく、賢夫人の今朝の装いを見るなり、事の成行きをおおよそのところまで洞察してしまった。賢夫人と長女が、組になって台所を見物に行ったとき、間もなく、二人がなにをいいにくるか、そのとき、もう予知していたのである。

「お前の望むようにしてやったのに、なにが不服だ」という一言は、石田氏にとっては、勝利の歌にあたるものだったから、母性愛をカセにした賢夫人の申し出も、なにを馬鹿なと、軽く一蹴され、それで、事は終ってしまった。

べつな調査班が迎えに来て、本式の点検がはじまり、管理部と石田氏の間に、重ねて、むずかしい掛合いがあった。

復原問題については、相互の間で折衝をつづけるという附帯条件付で、七年の間、毛色のちがう、見知らぬひとに占領されていた麻布の家は、めでたく旧所有者の手にかえったが、SPのガードは、受け渡し