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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
子を捨てる藪
一
た。それで、千々子さまを蕩しこんで、黒いスーツのひとのかわりに、うまく使いまわそうとかかった。
ワニ氏は、自分は東南アジアの革命の志士だなどと、千々子さまに吹きこんでいたらしい。千々子さまは、どのへんまで深入りしていたのか、当人が告白してくれるのでなければ、誰にもわからないことだが、それはそれとして、ワニ氏が香港へ飛ぶ寸前に捕まったのは、石田家にとっても、千々子さまにとっても、このうえもないしあわせなことであった。
翌日の朝刊に、ワニ氏が、どこかの警察の刑事部屋で寝っころがっている写真が出ていた。いうほどワニに似てもいなかったが、イルカぐらいのことは、たしかにあった。
子を捨てる藪
一
五月の末、わが石田の一家五人は、いいつくせぬ思い出のある渋谷のバラックを出て、麻布市兵衛町の家に復帰した。
終戦直後から七年の間、愁いの日にも喜びの日にも、かわらぬ生活の友だった古七輪や古盥を、露路の奥から手操りで運びだし、五十雄君は籐椅子もろとも上荷に積み、向山町のせせっこましい町角から走りだそうとすると、両隣りのおかみさん、通りの魚屋のお嫁さん、露路奥に一人で住んでいる大里さんという建築技師が、トラックのうしろに掴まって、名残りを惜しんでくれた。