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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
三
三
百々子の部屋の真下になっている石田氏の居住をのぞいてみると、石田氏はワイシャツの着流しで空脛をだし、部屋の積み夜具に腰をかけ、怒ったような顔で煙草を喫っていた。
この月のはじめ、石田氏が失業の由来をうちあけてくれてから、百々子にとって、パパは親しみやすいひとになった。
朝々、石田氏が賢夫人から折鞄を受取って、都内流浪の旅に出るのを、百々子がバラックの裏木戸まで送って行く。
「お父さま、今日はどこなの?」
と、たずねると、今日は国会図書館だよ、とか、今日は上野の動物園だ、とかと、こっそりと百々子にささやきかえす。
うちの石田氏は、高級官吏試験に落第したおかげで、行政機構改革にひっかかって退職し、いまのところは、先行きのない浪人業でしょったれているが、これでもむかしは、一点、隙のない伊達者だったのだそうである。
九万吉氏は、先代、石田与惣兵衛の養女たる賢子さま(現在の賢夫人)と結婚するという条件で、アメリカの大学へ留学させてもらったが、同学の合衆国美人と恋仲になり、
「毎朝、目覚時計ではね起き、立食い食堂でドナツン(ドオナッツとコォフィのこと)をかっこみ、口のはたについた粉砂糖を拭き拭き、セントラルまで地下鉄で駆けつけるような、みじめな白カラー組(下級サラリーマンのこと)に堕落いたしましょうとも、この結婚だけ