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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

「飯を食うのに、こんなに骨を折ることが、いるかというんだ。家庭の食事は、漫画じゃないんだから、あまり奇抜なことは、しないほうがいい」

そんなことをいっているうちに、石田氏は、だんだん腹がたってきたらしく、煙草に火をつけて、むやみに長い煙を吹きだした。賢夫人は、相手にもしない顔で、

「このテーブルと椅子のことですか? ええ、これはほんの当座の間に合せよ。そのうちに、しっかりした家具がきますから、それまで、我慢していただくわ」と軽くイナした。

「椅子に掛けて飯を食うなんていう習慣は、われわれの家庭には、なかったことだ。なんのつもりで、こんなことをはじめたんだ」

「この間、日本へ来た、なんとかいう西洋人がいっていましたね……日本人は平面でばかり生活しているから、知能が横這いする。もっと立体的な生活をしないと、西洋の文化に追いつけないって」

「うちの役所の生活改善課長も、似たようなことをいっていた……なるほど、立体的にはちがいない。こうして、さっきから中腰になって立っているからな……横這いかなにか知らないが、畳のうえの生活は、日本人の身についたサビのようなものだから、かんたんに擦り落されても困るんだ」