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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

石田氏は口髯を撫でながら、うっそりと見おろしていたが、

「気ちがいのつぎが、捨児か……すこし、授かりものが多すぎるようだな」

と、わけのわからないことをつぶやいた。

百々子が坂下の交番へ電話をかけた。

「もしもし、上の石田ですけど、藪の中に、子供が捨ててあるんです。泣いていますから、すぐ取りにきてください」

「えっ、またですか」

「また、って、そんなに、しょっちゅう捨てるんですか」

「ええ、お宅の藪の中へ……これで、五人目です。弱ったな」

「あなたが弱ることはないでしょう……じゃ、どうか、すぐ」

十分ほどすると、先日、女の豪傑たちを追い帰してくれた、若い警官がやってきた。

「やあ、どうも、とんだご災難で……できるだけ身元を調べて、母親にかえすことになっているのですが、捨てる気で捨てたのは、わかりっこないので困ります。これも、上野の乳児園行きでしょう」

そんなことをいって、あぶなっかしい手つきで抱いて行った。

この夜は、石田氏と同夫人の間に、相当な激戦が行なわれるはずだったが、思いがけない調停が入って、うやむやのうちに明日に繰りのばされることになった。

十時近く、一家五人は、別れ別れになって、おのが居住にひきとったが、この一日は、なにかと波風が立ち、百々子までが昂奮して、遅くまで寝つけなかった。