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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
枕をまわして、眠ろうと努力しているうちに、眼が冴えて、眠気がさめてしまった。
鎧扉の隙間からながめると、空の低いところに仄白い夜明けの色が漂い、薄い霧が庭樹の間を川の流れのように動いているのがみえた。
五月に霧がかかることはない。靄なのか霧なのかと考えているうちに、部屋のなかがいぶりくさくなっているので、靄でも霧でもなくて、どこかの煙突から煙が吹きつけているのだと思った。
「なんの煙だろう」
煙の正体を見たいというほどの好奇心もなかったが、鎧扉を突きやって、窓ガラスに顔を寄せると、その途端、炎の色に眼を射られて、あっと叫んだ。
二階の窓から見おろす位置にある、ケチンの庇合いから猛烈な煙が吹きだし、合掌になった軒下を、炎がチラチラ走っている。
「やったな」
頭のキメの粗い賢夫人と千々子さまが、よく知りもしない電熱器をいじくったら、どんな結果になるか、わかっているはずであった。百々子は部屋を飛びだすと、逆落しに階段を飛んで、とっつきにある石田氏の部屋のドアを叩いた。
「火事よ、お父さま、火事です」
これだけの叫び声が聞えないはずはないのだが、ひねくれているのだとみえて、なかなか返事をしない。