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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

ひねくれるのは勝手だが、火元が近いから、お尻に火がつく。腹がたってきて、足でドアを蹴ってやると、石田氏が浴衣の寝巻の胸をはだけたまま、ドアの隙間から顔をだした。

「なにを騒いでいるんだ。よその火事なんか、放っておけ」

「火事は、うちです。ケチンの天井裏が燃えている」

火源は石田氏の部屋の窓から見えないが、窓のそとの桃葉珊瑚の葉に炎の色がうつって、真赤に光っている。

石田氏は窓框に両手をつき、這いつくばうような恰好で、火の燃えているほうを見あげ、

「空襲でやられないで、いまごろになって焼けるのか。皮肉な話だ」

と、つぶやきながら、大急ぎでズボンを穿くと、

「ホース、ホース」

と叫びながら、広廊のほうへ走りだして行った。

わが石田家は、プールの水の使用料のことで水道局と喧嘩をしたので、水の手は、この月のはじめからぴったりと切れている。井戸から水をくみだすのでは、この際、ホースは役に立つまいと思ったが、石田氏のあとについて広廊を一気に駆け、北の端のサロンへ行ってみると、賢夫人と千々子さまが、眼を釣りあげて、せっせと荷造りをしていた。

千々子さまは、服のうえに春と冬のオーヴァーを着こみ、そのうえに、もうひとつクレヴァネットを着込もうというので、裾から火がついたようにもがきながら、