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あるおんな

或る女

有島 武郎

1(前編)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页

青空文庫

夕食を済ますと葉子はいつでも不満と失望とでいらいらしながら夜を迎えねばならなかった。木部の葉子に対する愛着が募れば募るほど、葉子は一生が暗くなりまさるように思った。こうして死ぬために生まれて来たのではないはずだ。そう葉子はくさくさしながら思い始めた。その心持ちがまた木部に響いた。木部はだんだん監視の目をもって葉子の一挙一動を注意するようになって来た。同棲してから半か月もたたないうちに、木部はややもすると高圧的に葉子の自由を束縛するような態度を取るようになった。木部の愛情は骨にしみるほど知り抜きながら、鈍っていた葉子の批判力はまた磨きをかけられた。その鋭くなった批判力で見ると、自分と似よった姿なり性格なりを木部に見いだすという事は、自然が巧妙な皮肉をやっているようなものだった。自分もあんな事を想い、あんな事をいうのかと思うと、葉子の自尊心は思う存分に傷つけられた。

ほかの原因もある。しかしこれだけで充分だった。二人が一緒になってから二か月目に、葉子は突然失踪して、父の親友で、いわゆる物事のよくわかる高山という医者の病室に閉じこもらしてもらって、三日ばかりは食う物も食わずに、浅ましくも男のために目のくらんだ自分の不覚を泣き悔やんだ。