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あるひ

或る日

宮本 百合子

「愛国婦人」1925(大正14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页

青空文庫

もう行ってよいのか悪いのか判断しかねて、厚い木綿に着ぶくれた膝の辺を一層もじもじさせて此方を視ているれんの様子は、彼に怒鳴りつけたいような野蛮な衝動を感じさせた。

「第一あの切口上が堪らない」彼は心の中でむかついた。「変に黒く光る眼じゃあないか、無智極るくせに押のつよい。放って置けばのしかかるし、何か云うと直さまあわてて、はい、はいの連発だ。――度し難い奴だ」

「お前も何だな」

やがて彼は白い天井から文句を読み上るように云った。

「出かけるがいい。息子の処へ行ってゆっくり休んで来たらよかろう。――……春迄」

「はい?」

「――年寄で冬はひどかろうから春迄休んで来たらよかろうと云うのだ。此方はどうともなる」

「はい」

れんは思いがけないことなので、考えながら途切れ途切れに答えた。

「はい――はい」

然し、程なく云われたことの全部の意味を理解すると、彼女の胡麻塩の頭の先から爪先まで、何とも云えず嬉しそうな光が、ぱあっと流れさした。

れんは、感謝に堪えない眼をあげて、幾度も幾度も扉の把手につかまったまま腰をかがめた。

「有難うございます。年をとりますと彼方此方ががたがたになりましてね。