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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

モグリの商事会社もやっているし、あの手この手のイカサマ、きわどいところで法網をくぐっているのがフシギなくらい。しかし野球のスカウトとしてだけは、実績をあげ、名声は隆々として、そのせいか、そッちでは、暗い噂をきかない。引ッこぬき作業自体が、イカサマ事業に類しているから、それで満ち足りているのかも知れない。

煙山が乗車したのを見届けて、金口と木介は中央の二等車にのる。そこには煙山は乗っていない。

「ハテナ。一等車かな。それとも一番前の二等車かな。モク介、見てこいや」

「ヘエ」

木介はズッと見てきたが、

「イヤハヤ。敵はさるもの、驚きましたわい」

「なにを感心しとる」

「一等車にはいませんわ。一番前の二等車にも、いませんが。なんぞ、はからん三等車の隅に、マスクをかけて顔をかくしていやがるよ。さッきの服装を見とったから、見破りましたが、煙山氏、お忍び旅行ですぜ。曰くありですな。察するに、二ツのトランクは、札束だ」

「今にして、ようやく、気がついたか」

「気がもめるね」

「煙山だって、自分の金じゃないのさ」

「なるほど。あさましきはサラリーマンだね。しかし、煙山氏の月給袋は、だいぶ、コチトラより重たいだろうなア」