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ピッチャーさつじんじけん
投手殺人事件
「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页
それを見ると、木介が、すれ違いざま、頓狂な叫びをあげた。
「アレレ。この人は手品使いかな。昨日は鳥打帽に黒っぽいマフラーだったぜ」
煙山はギロッと木介を睨みつけて、居古井警部の前に立った。すすめられて椅子にかけると、彼はクスリと笑って、カバンをあけ、
「ホレ。鳥打と黒っぽいマフラーはここにあります。私らはなるべく人目を避けねばならぬ商売だから、いろいろ要心しますな」
「なるほど。上野光子さんも、そう申しておられましたよ」
「彼も女子ながら、相当、やります」
「あなたは昨日、契約金と契約書を持って、上方へ乗りこんでいらしたのですね」
「その通りです」
「大鹿選手と契約を結ばれたのは、何時ごろですか」
「イヤ。それが奇妙なのですよ。汽車が米原へつくと、大鹿が乗りこんできたのです。どうして、この汽車に乗ってることが分ったか、ときいてみますと、そうと知ってたわけではないが、とてもジッと京都に待ってられない不安におそわれ、フラフラと米原まで、急行を迎えに出たというんですね。米原京都間は急行はノンストップです。それで、上野光子とのイキサツなども車中で話してくれましたが、イヤ、心配するな、安心しろ、というわけで、汽車の中で、契約書を交して、三百万渡してやりました。