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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

一

一

賭け勝負(木剣真剣望み次第)

試合は一本

申込みは金一枚

うち勝つ者には金十枚呈上

中国浪人天下無敵  ぬきうち獅子兵衛

横二尺に縦五尺ほどの杉板へ、墨も黒々と筆太に書いた高札が立っている。

時は寛永十九年二月。

場所は江戸両国橋広小路。

大江戸が将軍家お膝下の都市として、その面目と繁昌とを完全に整えたのは元禄以後であるという。だから寛永年間にはまだ建設の途上にあったことになるが、それでも両国橋付近は有名な盛り場で、人馬旅客の往来は絶えず、旅館、茶店、見世物小屋などが軒を並べ棟を列ねて賑わっていた。

その広小路のまん中へ、

――天下無敵。

という高札を立てたのだから、ことだ。

御入国以来、こういう高札の立つことは三度や五度ではない、多くは出世の機会を得ようとする剣術者であるが、中には、奇計を設けて金儲けを目的にする者もあって殺伐な気風の抜けない当時の市民たちに、折々の好話題を与えていた。

しかし、それらの人々は、お膝下を騒がすという点を遠慮して、たいてい御府内でもはずれに近い場所を選んでいたし、人柄も多くは魁偉な、いかにも武術者らしい風格の者であった。