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だきみょうがのせつ

抱茗荷の説

山本 禾太郎

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页

青空文庫

松の木のまばらな、だらだらと長い坂を登りきると急に目の前がひらけて、遠く地平線にまでつづくひろびろとした平野があった。人家なぞも一軒も見当たらず、はるかな右手に大きな、とても大きな池があって、その池のむこうには小さな森と、それを囲む白い塀が見えた。陽はよほど西に傾いて、このひろびろとした池の水は冷たそうな光を放っていた。

母は、この小さな森を指差して君子になにか言ったが、そのとき母がなにを言ったのか、君子にはどうしても思い出せない。今になって考えてみると、これは非常に大事なことで、そのときの一言さえ思い出せたら、夢のような一切がはっきりするに違いないと君子は残念に思うのであるが、それがどうしても思い出せない。山を下って森に着いてみると、それはずいぶん広い森で、長い田圃の突き当たりに大きい、大名のお城にあるような門が立っていた。門の前に立った君子の母は、しばらく躊躇っていたが、君子に、お前はしばらくここに待っているのだよ、お母さんはすぐに出てくるから、と言っていやがる君子をそこに待たせて、お高祖頭巾をかぶったまま門のなかにはいって行った。そして、そのままである。