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しんどうま

振動魔

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页

青空文庫

そいつを吐こうと思って、顎をグッと前に伸ばす途端に、咽喉の奥が急にむずがゆくなってエヘンと咳いたらば、ドッと温いものが膝頭の前にとび出してきた。

「こいつは、失敗った!」

柿丘秋郎には、普通の眼には見えない胸の奥底がハッキリ見えた。そのうちにも、あとからあとへと激しい咳に襲われそのたびにドッドッと、鮮血を吐き散らした。柿丘の前の血溜りは、見る見るうちに二倍になり三倍になりして拡って行った。それとともに、なんとも云えない忌やな、だるい気持に襲われてきた。すると、全身がガタガタと震えだして、いくら腕を抑えつけても、已むということなく、終には、実験室全体が大地震になったかのように、グラグラ振動をはじめたと錯覚をおこした。灼けつくような高熱が、全身から噴きだした。

「奔馬性結核!」

彼は床の上に転倒しながら、ハッキリ彼自身の急変を云いあてたのだった。

4

吾が柿丘秋郎は、なんという不運な男であったことだろう!

折角苦心に苦心を重ねた牝豚夫人の堕胎術には成功したのだったが、その夜彼は突如として大喀血に襲われ、急に四十度を超える高熱にとりつかれて床についてしまった。