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そうわ

挿話

徳田 秋声

「中央公論」1925(大正14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页

青空文庫

「何しろ七月はばかに忙しい月で、すっかり頭脳をめちゃくちゃにしてしまったんで、少し休養したいと思って」

「それなら姉の家はどうですか。今は静かです」

「さあ」道太の姪の家も広くはあるし、水を隔てて青い山も見えるので、悪くはないと思ったけれど、未亡人の姪が、子供たちと静かに暮らしているので厄介になるのも心苦しかった。

「とにかく腹が減ったね」

「え、どこか涼しいところで風呂に入って御飯を食べましょう。途中少し暑いですけれど、少しずつ片蔭になってきますから」

それから古道具屋などの多い町を通って、二人は川の縁へ出てきた。道太が小さい時分、泳ぎに来たり魚を釣ったりした川で、今も多勢子供が水に入っていた。岸から綸を垂れている男もあった。道太はことに無智であった自分を懐いだした。崖の上には裏口の門があったり、塀が続いたりして、いい屋敷の庭木がずっと頭の上へ枝を伸ばしていた。昔から持ち続いた港の富豪の妾宅なぞがそこにあった。

「あれはどうしたかね、彦田は」

「ああすっかり零落れてしまいました。今は京都でお茶の師匠をしているそうですが……」

道太は辰之助からその家にあった骨董品の話などを聞きながら、崖の下を歩いていた。