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そうわ

挿話

徳田 秋声

「中央公論」1925(大正14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页

青空文庫

七

川端へ出ると、雨が一雫二雫顔に当たって、冷やかな風がふいていた。

家へ帰ってくると、道太は急いで著物をぬいで水で体をふいたが、お絹も襦袢一枚になって、お弁当の残りの巻卵のような腐りやすいものを、地下室へしまうために、蝋燭を点して、揚げ板の下へおりていった。

「こんなもの忘れていた」お絹はしばらくすると、鮎の塩焼をもって上がってきて、匂いをかいでみながら、「これで一杯おやりなさい」

それは森宗匠がわざわざ遠方から取り寄せてくれたものであった。

「芝居はどうやったいに」老母は尋ねた。

「何しろ暑いんでね」

「越後獅子は誰が踊るのや」

「長三郎に魁車がつきあうのやけれど、すいた水仙のところなんか、何だか変なもんや。私いくつ時分だったか、一本歯をはいて、ここの板敷を毎日毎日布を晒らしてあるいていたもんや」お絹はそう言って、銚子にごぽごぽ酒を移していた。

廓はどこもしんとしていた。

そこへお芳も連れの楼主のお神といっしょにやってきた。

七

ある日も道太は下座敷へ来て、茶の間にいるお絹や、中の間で帳づけをしているおひろと話していた。

金瓶楼のお神はどこかへ行って、お芳だけが残っていたが、彼女はこまこまとよく働いていた。