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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

」

それは事実だった。石村商事を石村証券に切り換える時のことだった。どうせ当分は仕事もあまりあるまいが、諸君の生活は僕が保証する、と石村は社員たちに誓った。そして退職金については、一年間の勤務につき一ヶ月分の給与の割合で出すから、黙って仕事をしていてくれ、と約束したのである。

丸田はなだめるように言った。

「会社の方はだめですが、心配はいりませんよ。私にはよく分りませんが、商事時代にたくさん儲けていますし、石村さんの資産は相当なものだと思われるふしがあります。社員の退職金なんか問題じゃないでしょう。」

青木はもう外のことを考えて黙っていた。

「何を考え込んでいますか。景気よくやりましょうや。」

丸田は酒を誂えて、青木にもすすめた。

「いったい、何が問題なんです。」

間を置いてだったので、丸田は眼を丸くした。

「石村さんにとって、何が問題なんですか。」

「そんなことは私には分りませんね。」

「万里の長城です。日本に万里の長城を築こうというんです。だから、ばかげてるじゃありませんか。それを誰が言い出したかと言えば、この私です。だから、ばかげてるじゃありませんか。