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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

旅の古里の言葉で、

「しっかりやってつかアしゃア。」

「あんた娼妓さんかな。」私は沈黙ってコックリした。

「御亭主があそこにおってんな、うちの人ア、こうなったら、もう死んでもえゝつもりでやる云いしよりやんした。」

私はわけもなく涙があふれた。事務員をしたりして、つくした私の男が、大学を出ると、造船所の社員になって、すました生活をしている。どうしても会って帰えらなければいけない。

「こゝから見てると、あんな門位、船につかう××××××を投げりゃ、すぐ崩れちゃうのに。」

「職工は正道でがんすけん、皆体で打つかって行きやんさアね。」

門が崩れた。

蜂が飛ぶように、黒点が散った。

ツルツルした海の上を、小舟が無数に四散して行く。

潮鳴りの音を聞いたか!

茫漠と拡った海の叫喚を聞いたか!

煤けたランプの灯を女房達に託して

島の職工達は磯の小石を蹴散し

夕焼けた浜辺へ集った。

遠い潮鳴りの音を聞いたか!

何千と群れた人間の声を聞いたか!

こゝは内海の静かな造船港だ

貝の蓋を閉じてしまったような

因の島の細い町並に

油で汚れたズボンや菜っぱ服の旗がひるがえって

骨と骨で打ち破る工場の門の崩れる音