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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
ブラブラ大きな風呂敷包みをさげて歩いていると、ザラザラした気持ちで、何もかも投げ出したくなった。間代も払って、やれやれと住み込むと、二週間でお払いばこだ。
蒼い瓦葺きの文化住宅の貸家があった。庭が広ろくて、ガラス窓が二月の風にキラキラ光っていた。休んでやろうかな。
勝手口をあけると、さびた鑵詰のかんからがゴロゴロして、座敷の畳がザクザク砂で汚れていた。
昼間の空家は淋しい、薄い人の影があそこにもこゝにもたゝずんでいるようで、寒さがビンビンこたえて来る。
どこへ行こうかしら、弐円ではどうにもならないし、はばかりから出て来ると、荒れた縁側のそばへ、狐のような目のクリクリした犬がじっと私を見ている。
「何でもないんだよ、何でもありゃしないんだよ。」
言いきかせるつもりで、私は屹とつったっていた。
どうしようかなあ……。
夜。
新宿の旭町の木賃宿へ泊る。
石垣の下の、雪どけで、道がこねこねしている通りの、旅人宿に、一泊参拾銭で私は泥のような体を横たえた。
三畳の部屋に、豆ランプのついた、まるで明治時代にだってありはしない部屋の中に、明日の日の約束されてない私は、私を捨てた島の男へ、たよりにもならない長い手紙を書いた。