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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
門の外までお見送りして、それから、夢中で引返してお座敷のお母さまの枕もとに坐り、何事も無かったように笑いかけると、お母さまは、
「先生は、なんとおっしゃっていたの?」
とおたずねになった。
「熱さえ下ればいいんですって」
「胸のほうは?」
「たいした事もないらしいわ。ほら、いつかのご病気の時みたいなのよ、きっと。いまに涼しくなったら、どんどんお丈夫になりますわ」
私は自分の嘘を信じようと思った。命取りなどというおそろしい言葉は、忘れようと思った。私には、このお母さまが、亡くなるという事は、それは私の肉体も共に消失してしまうような感じで、とても事実として考えられないことだった。これからは何も忘れて、このお母さまに、たくさんたくさんご馳走をこしらえて差し上げよう。おさかな。スウプ。罐詰。レバ。肉汁。トマト。卵。牛乳。おすまし。お豆腐があればいいのに。お豆腐のお味噌汁。白い御飯。お餅。おいしそうなものは何でも、私の持物を皆売って、そうしてお母さまにご馳走してあげよう。
私は立って、支那間へ行った。そうして、支那間の寝椅子をお座敷の縁側ちかくに移して、お母さまのお顔が見えるように腰かけた。